HOW TO
自動化を知る
物流自動化のデメリットやリスクとその対策
自動化の効果
自動化設備の展示会や見学会の参加後に、「よし!我が社も自動化設備を導入だ!」とメーカーと話を進めていく中で”自動化設備を導入すること”についてどんどん解像度が高まっていきます。
そのなかで「思っていたより万能ではなかった」「期待していたほどではなかった」という理由から導入を見送るケースがよくあります。しかるべきプロセスを経て費用対効果をきちんと算出した結果、効果がどうしても届かないという場合は仕方ありません。
ですが、自動化することのデメリットやリスクについて十分に理解せずに検討を始めたばかりに、あとになって気がついて躊躇うことも少なくありません。そうなってしまうと検討していた時間が無駄になってしまいます。
本記事を参考に、庫内作業の自動化に伴うデメリットやリスクとその対策を知り、それでも自社に自動化が必要かどうかの判断材料にしてください。
目次
自動化するって良いことばかりではない?!
物流現場の労働力不足やそれに伴う時給の高騰によって、今や自動化設備の導入は現場規模の大小を問わず避けては通れない検討事項となっています。物流関連のニュースでは、さまざまな企業が自動化設備を導入した記事も目にすることが増え、導入が課題解決の特効薬のように映るのではないでしょうか。
しかし、実態として自動化するということは大きなメリットがある一方で、当然ながらできないことや苦手なこともあります。うまく導入できれば省人化の実現や作業の標準化など、現場運営において有益なツールになり得るのは言うまでもありません。
その反面、「導入さえすればあとは何もしなくてもいいんでしょ?」と考えてしまうと、期待した効果を得るどころか、リスクになり得ることを覚えておいていただきたいです。
自動化することのデメリット・リスク4選
では、自動化にはどのようなデメリットやリスクがあるのか紹介します。実際導入して使ってみたり、導入されている現場で体験・見聞きした内容から代表的なものを4つ解説します。
1.投資回収ができない
自動化設備は高価で気軽に導入できるものではなく、ほとんどの場合は社長決裁事案になり、しっかりと効果が出せることを念頭に置かなければなりません。導入した設備もうまく使えないと投資回収ができない、あるいは回収に想定以上の時間がかかってしまう可能性もあります。
この投資回収ができなくなってしまうケースにはいくつかの原因がありますが、意外に見落とされがちなのは導入規模が小さい場合です。自動化設備導入の効果は規模の経済が働きますので、導入規模が大きければ大きいほど効果が出やすくなる傾向があります。
しかし、実証試験やPoC(概念実証)という名目で小さく始める場合、十分な効果を得ることがより難しくなります。
いきなり大規模に導入して何かあったらどうしよう、という心理が働いて小さくスタートすることは多くの現場で取られているアプローチではあるのですが、一方で投資回収が難しくなるということも頭に入れておかねばなりません。
2.作業応援を入れづらい
これも考えてみれば当然といえば当然なのですが、例えば車の製造ラインを思い浮かべてください。アームロボをいくつも駆動しながら車を組み立てていく工程に人は介在していますか? きっと補助的に関わっているぐらいの光景をイメージされたのではないでしょうか。
それと同様、自動化設備と人は完全には作業量を分担することはできないのです。これを物流現場に置き換えて考えてみましょう。
注文がはねて入出荷の物量が増えて作業が終わらないかもしれない、といった経験はこの記事を読まれている方々であれば多くの方が経験されているのではないでしょうか。そんな時どうされてますか?
いろんな工程から作業が終わったスタッフを応援におくったり、事前に能力不足が分かっていたらスポット作業メンバーを調達していると思います。自動化設備を導入すると、その工程に人を沢山投入しても出来高は変わりません。つまり処理量を人的にはあげられないのです。
3.急な故障・老朽化問題が発生する
自動化設備は導入して終わりではない、と言われる大きな要素の一つです。文句を言わずにたんたんと働いてくれますが、機械的なトラブルやシステム的なトラブルはどれだけケアしながら運用しても発生してしまいます。
また、使っていくうちに老朽化問題も発生してきます。機械ならではのケアもしっかり行っていかなければ、トラブル続きで人の方が良かった、なんてことにもなりかねないので注意が必要です。
4.拠点移転時に重荷になる
自動化設備を導入する際には、移転の際にどうするのかをしっかり考える必要があります。
自動化設備の種類によっては移設が比較的容易なものもありますが、自動倉庫のような床にアンカーを打ち込んで設置するようなものは一筋縄ではいきません。導入したはいいけど拠点の見直しに伴って移設しなければならない場合でも、簡単にはできないことを理解した上で導入の意思決定をする必要があります。
それぞれのデメリット・リスクにはこう対応する
自動化設備を導入することに対してのデメリットやリスクに対してどのように考えればいいのでしょうか。一つずつ見ていきましょう。
投資回収の対策は2つを意識する
投資回収についてのリスクについては非常にシンプルです。リスクを取れる範囲で最大の規模で自動化設備の導入を検討することと、自動化設備がパフォーマンスを発揮しやすいアイテムを取り扱い対象にすることです。この2つを意識するだけで随分と投資回収の期間が短縮されると思います。
自動化を検討されている企業の多くはどちらかというと小さく切り出す傾向が強いと感じます。そこを大きく切り出すとしたらどういう自動化ができるかを考えることで、それが一番効果が出る自動化のプランになります。
さらに、パフォーマンスを発揮しやすいアイテムを取り扱い対象にします。分かりやすく表現すると、規格化された小物アイテムが最もパフォーマンスを発揮するアイテムになります。物流現場はありとあらゆるサイズや特性のアイテムを取り扱いますので、なかなかこの切り出しをするのが難しいのですが、それがポイントとなるのです。
作業応援を入れる発想を捨てた設計を
まずは応援を入れるという発想を捨てることです。人手で作業していた状況から考えると、作業が苦しくなると応援を入れるということが当たり前の選択として染み付いてしまっていると思います。
それを一旦リセットし、自動化した工程には応援を入れず、切り出して別のラインを特設するという考え方で工程設計していくことがポイントになります。
梱包工程で考えてみた場合、自動化設備を入れると製封緘工程作業が自動化されるわけですが、その機械の作業はそのままに、マニュアルの梱包ラインを特設できるように考えておくというイメージです。そうすれば機械能力以上の物量を処理しないといけなくなった際でも人手で作業をカバーすることが可能になります。
継続的な努力と体制が必要
故障や老朽化についてはなるべく発生させない努力と故障発生時の影響を最小限に抑える努力をする必要があります。
故障を発生させないためには日常的な予防保全活動が非常に重要です。予防保全活動とは、毎日掃除やメンテナンスをしたり、異音が発生していないか確認したりする活動です。この予防保全活動がトラブルの発生を未然に防ぎ、スムーズな現場運営につながります。
また、故障発生時の影響を最小限に抑えるためには、迅速な状況把握と対処方針の決定、つまりクイックな一次対応が鍵を握ります。感知や対応が遅れれば遅れるほど現場運営に対する影響範囲が大きくなってしまいます。そうならないようにトラブルが発生したらすぐに駆けつけて対処する体制構築が重要です。
内製化して自社で保守部隊を持つケース、メーカーさんに常駐保守を依頼するケースが代表的です。そこまでの体制を都問えられない場合は、チョコ停に分類されるような小さなトラブルは自社で対応し、大きなトラブルやシステム的に確認しないといけないようなものはメーカーさんを頼る、という切り分けを目指されるのが良いのではないでしょうか。
移転の可能性があるなら固定しないタイプの設備を
移転時に重荷になることに対してですが、移転はしない前提で考えておくか、将来的に移転しないかどうか現時点では判断しきれない場合は持っていきやすい自動化設備を選定するようにしましょう。
たとえばAGVやAMRのような、固定せずに使うタイプの設備であれば比較的移動させやすいので移転を想定しておくような場合の自動化においては良い選択肢となるでしょう。
正しい知識と対策があれば大丈夫!
自動化設備を導入するデメリットやリスクについてイメージできたでしょうか?自動化設備の導入はデメリットやリスクもあるけど、正しい知識と対策を講じればそこまで恐れるものではありません。その認識を忘れずにどんどん自動化を進めていきましょう!
また、いくつもの自動化設備導入現場を見てきてきた上で本記事を記載しているわけですが、上記で解説した4つのデメリット以外に取り上げるほどの内容が浮かばなかったのが何よりの証拠です。ここでご紹介した内容を頭に入れておいていただいて、是非皆さんの現場での自動化設備導入にお役立ていただければと思います。