HOW TO
自動化を知る
地方の物流課題に対して自動化は有効か?事例から見る自動化で得られる副産物
自動化の効果
地方の物流課題は、都市部の物流課題と比較して深刻です。都市部の課題解決のいち手段として、物流の自動化が推進されていますが、地方においては物流の規模感から自動化を諦めてしまうケースもあるでしょう。
「費用対効果が出ないから、自動化は見送る」という判断は、もっともではあるものの、この不確実性の高い現代において本当に正解といえるのでしょうか。当社CAPESは、宮城、高知、新潟、長野の現状を見聞きしてきた経験から答えはひとつではないと考えています。
この記事では、地方における自動化の実例を紹介しながら、その意義を提案いたします。
目次
そもそも地方の物流課題とは?
地域により状況は異なりますが、前提として地方には次のような課題があります。
・過疎化による労働力不足
・産業における県内消費量の減少
・労働者の高齢化
都市部と比較して人口の減少ペースが早い傾向にあり、労働力の確保が急務です。作業現場で働く人々の高齢化も進んでいます。外国人の労働力活用が始まっている地域もありますが、それでも安定的な労働力の確保は難しいでしょう。
一方で、人口の減少によって地方で生産されたモノの県内消費量も減少します。これにより、一次産業を支える方々の生活が成り立たなくなる可能性も懸念事項です。都市部の消費者に向けて、価格競争力を持ったうえで、商品を届ける物流の仕組み作りが必要とされています。
また中山間地などの人が少ない地域を抱える地方では、配達の負担も増加します。ラストワンマイルの領域では、ドローン活用などに向けた取り組みが始まっています。
2045年には、19の都道府県で高齢化率が40%を超える見通しです。早かれ遅かれ迎える人手作業の限界に向けて、動き出さなければなりません。労働力が減る中で、生産性の低下にどう歯止めをかけていくかが問われます。
出典:令和4年版高齢社会白書(全体版)
地方物流における自動化のハードル
物流現場の労働力不足には、自動化が有効です。ロボットやマテハン機器などの自動化機器導入により省人化が期待できます。
一方で、地方物流を自動化するには、ハードルがあることも事実です。そもそも物流の自動化は、規模が大きいほど効果を最大化できる特徴があります。商品を集約して規模を拡大できる事業者であれば、集約のうえで自動化した方が費用対効果を実感できます。
その点、数十人規模の物流現場の場合、想定の時点で費用対効果が期待できず、導入に踏み切れないケースもあるでしょう。大掛かりな物流の自動化は難しく、現行の施設のままできる範囲が検討の前提となる事業者も多いはずです。
しかし、こうしたハードルを理由に物流の自動化を諦めてしまうことは、必ずしも正しい選択といえるのでしょうか。正解はありませんが、費用以外の投資効果も捉えていただきたいと考えています。
地方物流において小規模な自動化をスタートした事例
ここで、小規模な物流の自動化にチャレンジされている食品加工業A社(宮城県)の一例を紹介します。
前に進むことで生じた小さな気づき
A社の工場では、大量に製造した商品を納品先ごとに仕分けし、納品先エリア別の仮置き場に搬送する工程がありました。この搬送作業にAGV1台の導入を検討し、テスト走行を実施しています。
AGV1台の活用によって、人を一人削減できるほどの効果は見込まれていません。しかしA社の社長は人手不足が加速する現状について危機感を持ち「前に進まなければ」と考えたのです。
現行の現場を活かしたまま、AGVで連結したカゴ車をけん引するテスト走行にあたって、次のような検討すべき課題が生じました。
・床のガタつき
・走行スピード
・連結するカゴ車の台数
・周回させるための内輪差
その他カゴ車を連結してけん引する際に、カゴ車の4輪のうち、後輪を固定しなければ左右に触れてしまうという気づきもありました。このような小さな気づきも、チャレンジなしには生まれません。
自動化への関心から生まれた現場改善の議論
またAGVのテスト走行をしている様子を偶然に見かけたスタッフが自然と集まり、
「こうすれば商品を運べるのではないか」
「この壁の部分がうまく走行できないね」
「こういうルールを設ければ良いのではないか」
と、熱心に議論する場面がありました。今、ロボットフレンドリーな環境構築の実現を政府が謳っています。まさに自動化機器と共存するためのリアルな課題を身近に感じられた瞬間といえるでしょう。
テレビの報道やインターネット上の記事では、Amazonのように大規模な物流の自動化が話題として取り上げられる傾向にあります。しかし、実際にはAGVを1台走らせるスモールスタートも物流の自動化といえるのです。
小規模な自動化において得られる副産物
物流を自動化する主目的は、人に変わる労働力として費用対効果を生むことです。一方で、導入や活用にあたって試行錯誤する過程では、ロボットや物流機器にあわせた工夫や改善が必要になります。ルール化や標準化を進めるきっかけにもなるでしょう。つまり古くからのやり方で続けてきたオペレーションや慣習を見直す契機になるのです。
物流の自動化は、問題のすべてを解決する代物ではありません。現場改善のいち手段です。
これを費用対効果のみを捉え、機会を見送ってしまえば、現場改善の機会をも逸してしまうことになりかねません。
また短期的には省人化や現場改善に繋げながらも、中長期的にはマインドチェンジにも繋がるのではないかと考えています。新しいソリューションに対して敏感にアンテナをはり、躊躇せずに受け入れていく文化を醸成できるでしょう。
物流の自動化に慣れてみると、新たなクリエイティビティが生まれるケースも珍しくありません。まずは、考えうる1番小さな自動化から始めてみることを提案します。
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小規模から始めやすい自動化機器
では、小規模から物流の自動化を始めるには、どのような種類の自動化機器が考えられるのでしょうか。
無人搬送車
まずAGVやAMRといった無人搬送車が挙げられます。1台から導入できるため、取り入れやすい自動化機器のひとつです。前述の台車などをけん引するタイプ以外にも、段ボールやコンテナボックスを積載するタイプや、棚をリフトのように持ち上げて搬送するタイプ、屋外を走行できるタイプ、重量物にも耐えられるタイプなどがあります。現場の工程を分けて考えると、搬送するシーンは少なくないため、柔軟に活用できます。
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仕分け機
次に、DASやソーターなどの仕分け機です。現場で働くスタッフの規模が数十人、数百人の規模であれば、十分に検討の余地があるでしょう。1番ミニマムな単位では、30仕分け程度の仕分け機もあり、拡張性もあります。
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地方の物流における自動化との向き合い方
地方の物流はすでに、目の前の労働力不足と向き合わなければならないフェーズにきています。
事業の持続可能な状態を維持するためにも、古くからある慣習やオペレーションを見直し、新たなソリューションを取り入れていくことは重要です。費用対効果以外の投資効果にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
地方の物流に自動化を取り入れている企業の共通点は、課題を乗り越えるための推進力の高さです。CAPESは、課題解決に取り組む企業様と伴走いたします。ぜひ、物流の自動化をご相談ください。
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執筆者
田中 なお
物流ライター。青山女子短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。倉庫の現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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監修者
西尾 浩紀
大学卒業後、ジュピターショップチャンネル、アビームコンサルティングを経て2015年モノタロウ入社。モノタロウではAGVピッキングシステムを始めマテハン設備を多数導入した国内最大規模の9万㎡の平屋建て物流センター立ち上げプロジェクトのマネージャーとして、業務プロセス設計から、総務・労務業務設計やスタッフ採用計画に至るまでの多岐に亘る業務設計をリード。センター稼働後はセンター長としてセンターマネジメントを実施。2018年株式会社CAPES設立。スタートアップから中小、大企業まで企業規模・ステージを問わず幅広く対応してきた実績を有する。特に自動化設備の導入・運用に関する豊富な知見を有し、EC物流の構築、物流センターの立ち上げ支援を得意とする。